私は現在一人暮らしをしているのですが、
2年ぐらい前まで電車で通勤してまして、
田舎のローカル線なので始点駅・終点駅まで30分、
1車両のみのワンマン電車、クーラー無しトイレ無し、
途中で止まるのは駅員の居ない無人駅のみ。
不便極まりないのですが、田舎の電車なんてこんなものです。
ある日の会社帰り、21時頃でしょうか。
乗客もまばらで、隣のサラリーマン風のおっさんの
イビキがうるせーなーと思いながら本を読んでいたのですが、
到着まであと2,3駅ぐらいの所で、急に寒気を感じました。
寒気といっても普通のゾワッとした感じではなく、
まるで皮膚をはがされる様な痛みが首筋にギチギチッ!と。
ふと気づくとすすり泣く声が・・・
前の座席に座っている女子高生二人組が、顔を伏せて泣いていました。
その子たちの前に『赤いモノ』が、吊革を掴んで立っていました。
この『赤いモノ』、服が赤いとかそんなんじゃなく、全身真っ赤。
腕も。足も。顔も。赤いフィルターを通したみたいにボヤっと。
それが座っている人の横顔を覗き込む様に、吊革からぶら下がっているのです。
向かいの女の子達はそいつに怯えている様子でした。
あまりに異様な光景に私も直に目を逸らしましたが、
イヤな汗と震えが止まりません。
あれがなんなのかはわかりませんが、
明らかに人間では無いことは直感でわかりました。
しばらくしたら『赤いモノ』はヨタヨタとした動作で隣の吊革へ。
次は隣の女の子の横顔を覗き込んでいるようでした。
女の子はバッグをギュっと抱えながらずっと震えていました。
ヤバイヤバイヤバイ。
こっち来るなこっち来るなこっち来るな。
なかばパニック状態で、頭にはそんな事しか浮かびません。
またしばらくすると『赤いモノ』は隣へ移動を始めました。
このままでは私の前に来てしまう・・・
私は必死に目を閉じて、時が過ぎるのをただ待ちました。
持ってた本のカバーはもう汗でクシャクシャになっていました。
ノシッ、ノシッとゆっくり歩く足音。
だんだん近づいていくにつれて、何かの囁き声が聞こえてきました。
いや、それは呻き声の様にも、地鳴りの様にも聞こえます。
小さく低い声で、何度も何度も・・・
『ミドリじゃないミドリじゃないミドリじゃないミドリじゃない』
恐怖で卒倒しそうになったその時、次の停車駅のアナウンスが流れ、
気づけばその赤いモノはどこにも居ませんでした。
しばらくは放心状態でしたが、きっと幻覚か何かだろうと
無理やり自分に言い聞かせました。
すると、隣で眠っていたおっさんが『フゴッ!』と噴出しました。
何事かと思っておっさんの方を見てみたら、
『赤いモノ』が、窓ガラスに張り付いてこっちを見ていました。
目が合った瞬間、フッと消えてしまったのですが、
しばらくはそこから目を逸らせませんでした。
隣のおっさんは『フゴッ!オオォ・・・・・・グゴォ・・・』とか言って
また寝始めました。
結局それからそいつの姿を見ないまま
電車通勤からオサラバしたのですが、
今でもあの異様な姿は忘れられません。
あの、眼球丸出しで焦点の合っていない目、
真っ黒で底が見えない口。
そして真っ赤で、毛むくじゃらなあの体を・・・